竜一の幸運

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「どうかした?」 店長さんの奥さんから声をかけられた。 「あ、ちょっと考え事」 「外寒いよ、なか入りなよ、珈琲いれるね」 奥さんは珈琲好きで、飲み口の軽い珈琲を入れてくれる。 いつものレジ裏には、昨日の高校生がいた。 「こんにちは」 「今日もサボってるな」 「はい」 奥さんの珈琲で一息いれると、やっと気持ちが収まってきた。 「あの…」 「どしたの?」 「学校行きたくないんです。」 「なんで?」 「勉強してなんになるんでしょう。学校つまんない」 「いじめ?」 「まさかぁ」 「勉強わかんないとか?」 「数学わかんない」 「私も1日休んだらわかんなくなったことある」 「ほんと?」 「教科書出して」 私の得意なとこだった。 それから二時間、あっという間に過ぎて行った。 「ありがとう、学校より全然わかった」 店長さんがクッキーを出してくれて、 「木戸くん、教え方うまいね」 「そんなことないですよ、」 「みっちゃん、たまに教えてもらったら?」 「あ、名前も知らんかった」 「三宅 美津子です。」 「木戸 竜一。よろしく」 「また教えてください。」 「いいよ、暇だし」 彼女は元気に笑いながら帰って行った。
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