🍸ブルーグラスの破片💥

『幸せな時』

　彼の最近めっきり少なくなった髪を、と言っても昔から彼を見てこられたわけではないけれど、涼しげだと思いながらクリスマスにはおしゃれなニット帽でも買ってあげようと考えを廻らせていた。奥さんにバレてしまうかな？　いや、バレてしまったほうがいいかもしれないと切なくも身勝手な考えも一緒について回った。
　私は不幸でいて、幸せだった。
彼は今の時間、私といることを選んでくれていたから。たいした話もしないうちに、景色を楽しむ間もないうちに車は、人だけが通れるように整えられた細い道の入り口に止まった。運転手は少し振り返り金額を告げ、ウイが皮の茶色い財布からお札を取り出し渡す。その間、小道の前に旅館の名前が書いてある控えめな看板を眺めていた。
「ポン、ほら行くよ」
　そう言われて振り向くと、ウイは車をでて私にも出るようにと手を出してくれていた。同年代の子がしないような紳士的なことを自然としてくれる彼が好きだった。
「あ、ごめん」
　ウイの温かい手に末端冷え性の私の冷たい手が乗る。
「お気をつけて」
　私が運転手に言った言葉は聞こえなかったみたいだった。
「いいよ、行こう」