🍸ブルーグラスの破片💥

『結局、終わりを選んだ』

　大事な人という言葉を聞いて、彼をひどいな、と思う。

　妻子ある人だと知っても離れられなかったのは私。不倫するなんて、バカだと思っていた。ゲームみたいに始まって、はまってしまったら結局傷つくのは決まっている。わざわざ人のものにしなくてもいいのに。でも違った。妻帯者を好きになったんじゃない。好きになった彼が偶然、妻子ある身だっただけ。

　彼がもっていたグラスを奪うとテーブルにおく。いつものように彼からの口づけがない。ウイが顔を寄せるときに深まって香る、彼の香りが好きだった。それを告げるとウイは決まって、加齢臭だよと言う。彼は若い私に気を使っているのかそう言うけれど、ウイの香りは昔から愛用していると言う香水と体臭が混じった香りで嗅ぐだけで私は愛撫を受けたときのようにうっとりする。

　うつむき加減の視線を彼に向ける。私からのスタート。ウイはマネキンみたいな顔している。微笑みなのか無表情なのか、それでいて心がわからない。うす暗く血色が悪く見える彼の唇に指を沿わせ、グロスで潤った唇を重ねる。彼の唇はやや乾燥していた。唇を離したあとでは、私のグロスで潤っているかもしれない。相手を労るようなキス。