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その週の木曜日、午後六時に澁澤と待ち合わせをする。 友達との約束なら多少の遅刻も許されるのだろうが、一応相手は店のお客さんだ。 遅れるわけにいかないと急ぎ支度を整えたわたしは、時間に余裕を持って地下鉄に乗り、待ち合わせの駅へ向かう。 昨日の夜、電話で話したときの澁澤は「気軽な服装で平気だよ」と言ってくれたけど、カジュアル過ぎるのはNGと考えたわたしは、深夜にクローゼットひっかきまわして、きれいめコーディネートに決めた。 だけど、ちっとも似合っている気がしない。 お気に入りをまとって出掛けるときはいつも心が弾むのに。 気持ちが浮かないのもそのせいだと思う。 ただ、今日に関しては、場違いな服装で澁澤に恥をかかせるのは申し訳ないから、妥協もやむを得ず諦めよう。 地下鉄を降り、地上への階段を上り詰めると、正面の歩道に横付けされたエスティマの運転席から、笑顔で手を振る澁澤が見えた。 わたしがドアに手をかけると、澁澤は助手席側に身を乗り出してドアを開けてくれる。 「こんばんは」 「こんばんは。さ、乗って」
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