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……夜が明けて、陽が空から地上を見下ろしていた。
重い瞼(まぶた)をヒクつかせて、目の中全体に光を取り込む。
場所を移した記憶は無いので、当然周りの風景にこれといった大きな変化は無い。
ただ明るくなった、朝が来た、それだけだ。
夜巳はあれからベンチで床に就き、今し方目覚めて石造りの歩道を眺めている。
目の前を制服を纏う学生やらスーツのサラリーマンやらが行き交う。
「そんな時間か……」
夜巳も現在、義務教育を受けている身。
普通なら前日にちゃんと家へ帰り、寝て、次の朝には朝食をたいらげて家を飛び出す。
だが、
「……どうでもいいや」
今の彼女にとって、特別気にかける程のことではなかった。文字通り、学校なんてどうでもよかったから。
出席を取ってもわたしの返事が無く、座席にすら不在で、それで周りが有ること無いこと言い合って憶測を飛ばしても、別段構わないと思った。
──時間の経過を待つ。
1年を通して4つの季節が通り過ぎるよりも遅く感じられた気がする。
……父から“儀式”の話を訊かされてから決行に致までの3年よりも、下手したら長く。
夕陽が遠くに見える街の中へと沈み、間も無く世界は夜を迎える。
シスター・カレンとの約束の時間もまた、刻々と近付いていた。
彼女を信用した訳ではない。
相手は逢って1日も経とうとしない赤の他人。
どちらかと言えばあの言動、夜巳は怪しんでさえいる。
しかし、幸か不幸か……夜巳は今すべからく暇を持て余している。
故に彼女を待ち続けることに、この時間この場所の意味を見出している。
でなければとっくに離れていた。
辺りは暗く静まり、昨日と同じ状態に落ち着く。
そろそろであろうか。
……シスター・カレンは自分に一体何を渡すつもりなのだろう。
“シスター”とは修道女を指す。
己が信仰する唯一神に仕える女性のことだ。
その姿は“慈悲深い”とされ、それが今でも定着していたりする。
実際に良い女性(ヒト)ばかりかどうかは断言できないが。
……お金かな。いや、それは無いな。
シスターのいる教会はどこも寄付金なんかで保っていると訊くから。
泣く泣く切り詰めたやりくりの中で出せるパンとミルクとか。
そう言えば、まだ何も腹に収めていなかったな……。
腹をさすりながら1人ポツンと居座る夜巳。
そこに昨日と同じ服装で、“赤い布”を抱えたカレンが現れた。
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