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武史はそっと彩香の体を離した。
「そろそろ帰るか。送ってくから!」
これ以上一緒にいるのは精神的に良くない。武史と彩香は自然と手を繋ぎながら歩き出した。
「おやすみ彩香!」
「うん!おやすみ武ちゃん」
彩香が玄関に入るのを見届けてから、武史は家に帰った。彩香はひさびさにゆったりとした気持ちで、寝る事ができた…。
それから5か月の月日が流れて…彩香は出産の瞬間を迎えようとしていた。武史も学校が終わってから駆け付けた。
「痛い…痛いっ…」
一生懸命牧枝は背中を擦った。彩香は朝から8時間…ずっと陣痛に耐えていた。時折意識が朦朧としてくる。
「彩香!頑張れ!」
牧枝と交替して武史も背中を擦った。
午後七時。ようやく分娩室に入る事になった。武史と牧枝は祈る様に手を前に合わせて、子供が産まれるのを待った。
分娩中のランプが消えた…
そして…
ホギャァーホギャァー
扉の向こうで元気な泣き声が聞こえた。武史は思わず涙がでた。
しばらくするとおくるみに包まれた赤ちゃんを、看護婦が連れてきた。
「すげー小さい…」
武史は思わず感動してしまった。小さい手が何かを探す様に動いている。可愛いなあって素直におもった。
やがて彩香も分娩室から出て来た。武史の顔を見ると涙ぐみながら
「名前は武史に付けて欲しいの。何か考えておいてね!」
「…実はもう考えてあるんだ。七つの海って書いてななみ…」
「どうかな?」
彩香はクスッと笑いながら
「うん♪随分準備いいんだね(笑)ななみちゃんかぁ…それに決まり!」
牧枝の同意も得て赤ん坊の名前は『七海』に決まった。
七海が誕生して一年がたった…。そして今日は武史の卒業式。式が終ると武史は真っ先に彩香と七海の元に走った。
「彩香!無事卒業したぞ!」
「おめでとう武ちゃん!」
彩香は笑顔で迎えた。七海も
「た~ちゃ!た~ちゃ!」
と言ってはしゃいでいる。七海を少し牧枝に預けて2人は公園に来た。
「約束通り迎えに来た。彩香…俺と結婚してください!」
右手を差し出して頭を下げた。彩香はしっかりと右手を握り
「こちらこそヨロシク!」
そう言ってニコっと笑った。武史はそのまま…今度は唇にそっとキスをした。
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