失踪

4/6
767人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
武史は翌朝七海の泣き声で目覚めた。   「おい彩香~七海泣いてるぞ~!」   武史が言ってもなんの返事もなかった。仕方なく起きて、七海を抱き上げてあやした。   「彩香~何処だ?ゴミ捨てか?」   部屋中七海を抱きながら探したが、彩香は何処にもいなかった。ふとテーブルを見ると、そこには一枚の手紙と昨日美咲に貰った名刺が置かれていた。手紙には    『武ちゃんへ   昨日この名刺をあなたの服から見付けてしまいました。あなただけは私を裏切らないと信じていたので、凄くショックでした。   あなたの事だから何か事情があるのかもしれない。でも私にはそれをあなたに問いただす勇気がありません。 これ以上あなたを嫌いになる前に、あなたの前から居なくなります。もう信用していた人に裏切られるのは耐えられません。   七海も連れて行こうとしましたが、しばらくして落ち着いたら迎えに行きます。それまでよろしくお願いします。もしあなたが育てるのが無理だったら、うちの実家に預けて下さい。   また逢う日まで…      彩香』   と書かれていた。武史は愕然とした。自分の優柔不断な性格が彩香を追い詰めてしまった。彩香が持っていた携帯はそのまま、テーブルに置き去りになっていた。   武史は彩香の行きそうな所をくまなく探した。でもまったく手掛かりが掴めなかった。彩香は今頃何処にいるんだろう…武史は心配でたまらなかった。   二か月ほどして彩香から一通の手紙がきた。そこには署名捺印済みの離婚届けだった。別の紙に   『私と離婚して下さい。あなたは他の誰かと幸せになって下さい』   とだけそっけなく書かれていた。彩香からはその手紙を最後にまったく連絡がくる事はなかった…。  
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!