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武史は翌朝七海の泣き声で目覚めた。
「おい彩香~七海泣いてるぞ~!」
武史が言ってもなんの返事もなかった。仕方なく起きて、七海を抱き上げてあやした。
「彩香~何処だ?ゴミ捨てか?」
部屋中七海を抱きながら探したが、彩香は何処にもいなかった。ふとテーブルを見ると、そこには一枚の手紙と昨日美咲に貰った名刺が置かれていた。手紙には
『武ちゃんへ
昨日この名刺をあなたの服から見付けてしまいました。あなただけは私を裏切らないと信じていたので、凄くショックでした。
あなたの事だから何か事情があるのかもしれない。でも私にはそれをあなたに問いただす勇気がありません。
これ以上あなたを嫌いになる前に、あなたの前から居なくなります。もう信用していた人に裏切られるのは耐えられません。
七海も連れて行こうとしましたが、しばらくして落ち着いたら迎えに行きます。それまでよろしくお願いします。もしあなたが育てるのが無理だったら、うちの実家に預けて下さい。
また逢う日まで…
彩香』
と書かれていた。武史は愕然とした。自分の優柔不断な性格が彩香を追い詰めてしまった。彩香が持っていた携帯はそのまま、テーブルに置き去りになっていた。
武史は彩香の行きそうな所をくまなく探した。でもまったく手掛かりが掴めなかった。彩香は今頃何処にいるんだろう…武史は心配でたまらなかった。
二か月ほどして彩香から一通の手紙がきた。そこには署名捺印済みの離婚届けだった。別の紙に
『私と離婚して下さい。あなたは他の誰かと幸せになって下さい』
とだけそっけなく書かれていた。彩香からはその手紙を最後にまったく連絡がくる事はなかった…。
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