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七海は彩香の両親のもとで、普通に幸せな生活を送っていた。武史からその後も何回か一緒に暮らそうと言われたが、また新しい生活を始めるのは大変だからと断っていた。
七海が13歳の時に祖母の牧枝が心臓発作でなくなった。食事のあと片付けの為に立ち上がったら、そのまま崩れる様に倒れてしまった。いそいで救急車を呼んだが到着する頃には、すでに心臓が止まっていた。
七海は霊安室に移された牧枝の側を、ずっと離れる事もなく泣き続けた。誰よりも七海を愛してくれたのは牧枝だったから…。
牧枝 享年70歳。
牧枝のお通夜の席で七海は武史から、びっくりする話を聞いた。実は七海の母親は生きてると言う事。そしてその母親の居場所がわかったという事。きっと祖母の死でうちひしがれている私を、励ますために教えてくれたのだろう。住所の書かれた紙を武史から受け取って、七海はそのままその紙を机の引き出しにしまった。
その翌年の五月に今度は祖父の洋介が、牧枝の後を追う様になくなった。脳梗塞だった。
洋介 享年73歳
葬式の準備などは武史が全部やってくれた。離れて暮らしてはいるけど、武史はいつでも七海が困った時には助けにきてくれていた。祖父の49日の法要も終わり、武史は七海に
「なあ七海。もう何回も振られているがもう一度言うな?一緒に暮らそう!この家で一人でいるのは不用心だから」
武史の今の妻の未優も
「遠慮する事ないのよ七海ちゃん。一緒に暮らしましょう!」
と言ってくれた。でも小さい頃からずっと住み慣れた祖父母の家を、離れるのがなんだか寂しい気がしたのだ。しばらく考えさせてくれる様に武史に頼んで、その日は武史も未優も帰って行った。
七海は一気に祖父母を亡くして、自分は独りぼっちなんだという寂しさに襲われた。武史には別の家庭がある。自分があの中に入ったら、また家族がバラバラになってしまうかもしれない…。私にはもう何処にも行く場所はないんだ。
七海は一人で部屋で泣きながら、ふとある事を思い出した。慌てて机を開けると、そこには母親の住所がかかれていた紙があった。七海は急に怒りが込み上げて来た。祖父母の葬式にも顔を見せない母親に、逢って文句を言ってやりたくなったのだ。
七海はさっそく着替えて外に出た。そして住所を頼りに、彩香の住むマンションを探した。
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