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彩香が目が覚めると、もう外は真っ暗だった。体には毛布が掛けられていて、ふとベットを見ると男は寝ていなかった。
「中津さん?」
彩香はソファーから降りて、あちこち探すと中津はベランダで煙草をふかしていた。
「こんな所にいたんですか。」
彩香が中津に声をかけると
「あぁ起きたんだね!」
そう言いながらゆっくり振り向いた。
「あの…家に呼び出してまでどうしたんですか?」
「店ではなかなか言えないから、ここに呼んだんだよ。」
そう言って一息ついてから
「彩香…俺と三か月だけ一緒に暮らしてくれないか?」
「へっ?なんで三か月?」
中津の奇妙な申し出に彩香は困惑した。
「俺の体さ…。たぶんそれぐらいしか持たないから。別に何もしてくれなくていいんだよ」
「…ただ側にいて、一緒に過して貰えればそれでいいんだ。」
そう言って中津は外の景色に目をむけた。
彩香はしばらく何も言えなくて俯いてしまった。すると中津が
「ありゃ。困らせてしまったみたいだな。ごめん今の話忘れてくれ」
「あの…医者には行ったんですか?」
彩香は中津に尋ねてみた。
「医者には行ってないよ。去年の終り頃に肝臓を悪くしてね…。今も調子はよくないんだが、別に奥さんも子供も居ないしいつ死んでも悔いはないと思ってた」
「だから治療もしないでほったらかしにしといたんだよ。」
「そんな…だったら今すぐにでも治療して下さい!医者ぐらい付き合いますから!」
「いや…もう無理だよ。手遅れだ。自分の体は自分が一番良く知ってるからね」
「俺は…金はあるが昔から愛情には恵まれなかった。特に誰も好きにならなかったしな」
中津は彩香を見つめながら
「でも…この年になって彩香に出会ってしまったんだ。お前の笑顔の裏に潜んでいる悲しみに強烈にひかれたんだ…」
「中津さん…」
彩香は何故か涙が止まらなくなってしまった。中津の真剣な想いが、彩香の心を締め付けた。
「わかりました…。一緒に住みます。三か月だけと言わずにあなたが死ぬまでずっと…」
断われるわけがない。彩香は中津の真剣な想いに答える事にした。
こうして中津と彩香の2人暮らしがはじまった。
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