空白の12年間

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彩香はとりあえずキャバを辞めて、昼間の仕事に切り替えた。中津はもう仕事は若い人達に任せてあったので、ほとんど家で過していた。   彩香は中津と生活していくうちに、中津の優しさやチラッと見せる笑顔に心を奪われていった。   武史の強引で情熱的な愛とはまったく違う、まるで包み込む様な穏やかな愛…。     中津はいつも寝る時は腕枕をして、頭を撫でながらまるで子供を寝かし付ける様に一緒に寝てくれた。   中津は彩香に一度も、セックスどころかキスさえ求めて来なかった。彩香は中津と暮らし始めて二か月たった時に   「ねぇ…何もしないの?何もしてくれないの?」   と聞いてみた。   「彩香の事本当は抱きたいけど…今お前を抱いたらこの世に未練が残るから抱かない。」   「なんで?私はあなたと触れ合いたいのに…もう…あまり時間もないから…だから…」   彩香はそこで言葉が出なくなった。   「なぁ彩香…俺は毎晩お前の寝顔をみられるだけで幸せなんだよ。今お前と体を合わせたら…きっと死ぬ事が怖くなってしまう。」   そう言うと中津は始めて涙を流し始めた。   彩香は中津の涙を見て、それ以上我が儘を言うのは辞める事にした。今までどおり、中津の温もりを感じながら一緒に寝れたらそれでいい。     中津と暮らし始めて二か月半が過ぎた。 彩香が仕事に行く支度をしていると、中津はいつもの様にコーヒーを入れていた。 彩香はいつも中津のいれてくれたコーヒーを飲んで、穏やかに気分になってから出勤していた。   中津の姿をチラッと見て、彩香は化粧台の前で髪の毛にドライヤーをかけていた。   すると   ガシーャン   と言う音とともに中津が倒れた。 彩香はすぐに中津の所に駆け付けたが、すでに意識はなかった。救急車が到着した頃には心臓も止まっていた…。   中津はそのまま二度と目を開ける事はなかった…。       病院での検死も終わって彩香は葬儀会社に電話をして、中津の遺体を2人のマンションに運んでもらった。彩香は中津の穏やかな死に顔を見ながら   「私あなたを少しでも幸せに出来たかな?私が幸せだったのと同じぐらい…あなたを幸せに出来たのかなぁ?」   そう言って中津の冷たい唇に、自分の唇を重ねた。 
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