空白の12年間

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彩香は中津が死んだあと、しばらく放心状態だった。まるで心に穴が開いてしまった様だ…。何も考えたくない、誰ともしゃべりたくない。彩香は中津の位牌を胸に抱いて、家から一歩も出ずに過していた。   中津の四十九日法要も終わり、彩香も少しは中津の死を受け入れられる様になったある日。しばらく鳴らなかった携帯がメールの着信を知らせていた。 彩香は無意識に携帯を開くと、メールの送り主は中津だった。日付指定のグリーティングメールだ。たぶん生前に送った奴だろう。彩香はメールを読んでみた。     件名;HAPPY birthday   本文;彩香誕生日おめでとう♪俺はこのメールが届く頃死んでいるかもしれない。 俺はお前との三か月間凄く楽しかったよ。俺の我が儘を聞いてくれてありがとう。 遺書はパソコンのデスクの引き出しの一番上に入ってます。財産の事でもめない様にきちんと、書いておきました。彩香にはこのマンションを、遺産として残します。この先住むのも、売ってお金にするのも彩香の自由です。どうかこれからも魅力的な彩香でいてください。 彩香と出会えたから、俺の人生も捨てたもんじゃなかったなって思える様になったよ。 本当にありがとう。 彩香が産まれた事を神に感謝しながら…俺は先に逝きます。生きてる時には言えなかったけど 愛してるよ 彩香       そして最後に天使がハートマークを持っていて、ハートの中にHAPPYbirthdayと書かれた画像も添付してあった。   彩香は中津のお葬式が終わってから初めて泣いた。自分への痛いほどの愛が、メールから感じ取れた。彩香はずっと携帯を握り締めながら泣いていた。     強くならなきゃ…中津みたいに強い人になりたい。彩香はこの日から絶対に泣かなくなった。そして自分の内面のもろさを人に見せない様に、まるで仮面をつける様にしゃべり方や生き方を替えた。   彩香はこの中津との思い出が沢山あるマンションに、そのまま住む事になった。そして今までの貯えで近くに小さなスナックを開店させた。       あれからもう10年…今頃中津はどうしてるんだろうか?七海が尋ねてきてくれて彩香は、ひさしぶりに中津との事を思い出していた。  
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