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―――今は、違う。
―――されるがままだったあの時とは。
「―――ルシファー様」
「………何の用だ」
古城"ニヴルヘイム"の最上階で、腰までの黒髪を背に無造作に流した青年―――ルシファーが振り返る。
六対十二枚の漆黒の翼と、真紅の瞳が印象深い。
自身の片腕とも呼べる死神・パラケルスス。
後に千年伯爵と呼ばれる青年は、珍しく機嫌の良い主の前にひざまずく。
見た目の年齢は殆ど変わらないが、パラケルススよりルシファーの方がずっと長い時を過ごしている。
パラケルススが生まれた頃には既に魔王となっていたルシファー。
天使と悪魔、禁断を侵し、両方の血をその身に宿した、三人の"禁忌の子供"の内の一人。
幼少時に"不老不死の妙薬"として人間に追われたその青年は、類い稀なその強すぎる力と明晰すぎる知識で今の体制を作り上げた。
「アリアお姉様が呼んでおります」
「分かった……いつもわざわざすまないな」
「いえ……ルシファー様とお姉様には感謝しておりますから。人間に殺された子供の僕を、まさか死神として重用するんですから」
パラケルススも皮肉を言っている訳では無かった。
元々他人に心を開ける質ではなかったパラケルススも、ルシファーに対しては絶対の信頼をしているし、逆に信頼を置かれている。
他人にそうさせるだけの魅力も実力も、ルシファーには在るのだから。
「私は実力主義なのでな」
「知っています。故に人間の、豊かな者が上に立つという、卑しい体制を嫌悪している事も」
「人間は傲慢過ぎる。挑戦だと言えば聞こえは良いが、それに伴うリスクを考える事をしない」
「貴方様の御両親の事をおっしゃっているのですか……?」
「母様も父様も……私の様なくだらない命の為に殺されたのだ。不死などなれぬのに、不死の妙薬と言われた私達などの為に」
ルシファーのきつくにぎりしめられた手から、血が滴り落ちる。
「神などいない。いるのは、欲望に濡れた者達だけだ………」
「……申し訳…ございません。このような事を、思い出させてしまって……」
「いや、いい。お前にあたっても仕方の無い事だ。……アリアは何処に?」
「ホールにて貴方様をお待ちしております」
「……またデートか」
チッと舌打ちするルシファーは、まるで苦手な物を相手にする子供みたいで、パラケルススは笑った。
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