Zangeki

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Zangeki

 血なんて、見飽きてしまった。  向かって来る敵なんて、もう生き物にも思えない。  そのぐらい麻痺してしまった。それはわかっている。  でも、自分の中に戦いをやめると言う選択肢は浮かんで来なかった。  ふと、握りしめていたはずの刀が手から抜けて飛んで行ってしまう。ああ、こんな時に。取り囲まれたこんな状況で。  向かって来る敵の目が笑っている。そう、自分は刀を失ってしまえばただのデクの棒……何の脅威でもない。背後で一緒に戦っている仲間が何か叫んでいるが、自分の耳には届かなかった。  命が、丸裸になっている。瞬時に嫌な汗が背中を濡らした。  走って来た敵の一撃をかろうじて避けるが、次は残されていなかった。その刃先よりも先に敵の目がこちらを向く。それは、自分が打開策の欠片を思いつくよりも遥かに速くて……。  「紫!」  仲間の声と、もう一人、自分の名前を呼ぶ声。  目の前で爆ぜる刃と刃の銀色。  束ねた先が振り乱された真っ黒な髪。  小柄なその人は、そのままその敵を斬り捨てて自分を振り向いた。 「大丈夫か!?」  息を切らして自分に刀を渡してくれる。汗でじっとりと濡れた掌に、慣れたその握りは吸い付くように収まった。  その人とともになだれ込んで来た仲間達によってその空間はすぐに制圧され、敵の存在が無くなった途端に、疲労がたまった膝が悲鳴を上げて畳に尻餅をつく。そんな紫の様子を見て、小柄なその人は吹き出した。 「よっぽど疲れたんだな」  同時に、周りの仲間達もにやりと笑って吹き出す。殺伐として血の臭いが充満したその場所に、和やかな空気が漂った。 「ありがとうございます、墨さん」 「悪いな、遅れちまって」  自分達のいるこの空間が、最後の休息所となる所だ。ここを目指して、数カ所の突入口からいくつかに別れてやってきたのだが、紫達の所が一番乗りで、そのあとに続くはずの他の仲間達の到着が思ったよりも遅くなってしまった。そのため、 「二人、やられました」  紫は立ち上がると、座敷の死体の間を縫うように歩き、折り重なるように倒れている敵をゆっくりと動かした。敵の死体を全て端に寄せると二人の仲間がそこに取り残され、紫は無造作に倒れていた二人を綺麗に並べて手を組ませる。 「煤竹……山吹、すまなかったな」  墨はそう呟いて、そっと亡骸に手を合わせた。
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