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本が昔から好きだ。 だが、国語は苦手……むしろ嫌悪すらしていた。 好きでも無い文章を読まされる。 あらかじめ定められた感想を述べねばならない。 この時、主人公はどう思ったでしょうか? そんなの、わからない。 私は他人の心が覗ける眼力など持ち合わせていない。 だから、考える、考える、考える。 そして、その答えは周りの級友達からはいつも浮いた物となってしまう。 人は違う。 同じ様に見えて、皆違う。 だから、答えがズレた物で有っても気にする事は無い。個性だから、それは大切な貴女の思考なのだから。 そう教えてくれたのは、小学校の図書館司書だった。 ふっくらとして柔らかそうな脂肪を全身に纏い、小さな鼻の上にちょこんと老眼鏡をかけた人だった。 あだ名は「ぽたぽた焼きのお婆ちゃん」 お婆ちゃんは伝えたい事の塊で、でも言葉が見つからなくて、もどかしくてたまらなくて。 未だ小学校二年生だったそんな私の言い分を、いつも黙って優しく聞いていてくれた。 「そう、詩織ちゃんは兵十も可哀想だって思うのね?」 私は先程の国語の授業で散々な思いをした事をお婆ちゃんに必死になって喋っていた。 「そうなの!ごんは可哀想って言うくせに、皆兵十はヒドイって言うの!」 「どうして兵十は酷いんだろうね?」 「それは……ごんを撃ったから。殺しちゃったから」 「ごんを殺した兵十は、酷くないのかしら?」 「それは……ヒドイけど、でも兵十はごんがやってる事知らなかったんだよ!」   ごんぎつね。 悲しくって理不尽な話。 私は小学校の国語教科書に出てくるあのお話が、嫌いだった。
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