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病床に伏せった母が、今際にうなぎが食べたいと言う。 母の願いを叶えようと、兵十は川に仕掛けを作り、うなぎを捕える。 ところがイタズラ小狐のごんが事情を知らずに、そのうなぎを盗む。   その数日後、兵十の母の死とうなぎの一件を知ったごんは、凄まじい後悔の念に駆られる。   「嗚呼、知らなかったとは言え、何という事を!」   せめてもの罪滅ぼし、とごんは毎日山菜や花を、兵十の家へひっそり贈り届けるのだ。   悲しみの縁で母の死を嘆いていた兵十は、差出人不明のこの贈り物に首をかしげながらも、喜び力付けられる。   そして……。 ある日兵十は自分の家の付近をこっそり歩くごんを見つける。 しめた!とばかりに火縄銃を手にし、いつぞやのうなぎの恨み、無念……晴らさんと引き金を引く。   倒れたごんの傍らに近寄ってみれば……いつもの贈り物を口にくわえている。   彼は呆然と呟く。   「ごん、お前だったのか」     何て理不尽なんだ! 私は国語の授業中、怒りと涙をこらえるのに必死だった。 誰も救われない。   うなぎを食べられぬまま死んで行ったお母さんも。 ちよっとしたイタズラを心底嘆いて必死に罪滅ぼしをして、挙げ句殺されてしまったゴンも。 事情を知らなかったとはいえ絶望から救ってくれたごんを殺し、呆然と立ちすくむ兵十も。   救われない。 誰もきっと、根っから悪い訳じゃない。 むしろ優しいのに。   みんなみんな、悲しい。   なんだって、こんな嫌な話を無理矢理読まされなきゃいけないのか。   先生が出席番号順に内容を朗読する様に促す。 私は自分の番が来ても、拒否した。    「詩織ちゃんは本当に我が儘ね」   そう呆れられても、怒られても。 嫌な物は嫌なのだ。 あの話を一文でも、声に出して読めば……私の瞳は壊れると思った。   コックの壊れた水道の様に、きっとダクダクと涙が零れて止まらなくなる。   可哀想。 みんなみんな、可哀想。 こんなヒドイ話って、ない!   私の訴えを、お婆ちゃんは何故だか目を細めながら聞いていた。 お日様を眺める目だと思った。 或いは、夜道を行く自動車のハイライトを見る目。   眩しい物を見る目。
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