一章・蛇と林檎 ~1~

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不毛だと思う。 毎年、毎月、毎週月曜日の朝。   何故だかその日は朝礼が有る、と判で押した様に決まっている。誰が決めたのか。 きっと昔の人だろう。 週の初め、その初っぱなから直立不動で何十分と立たされる。 こんな習慣は無くしてしまえば良いと思いつつも、たかだか一職員の私にそんな権限は無い。   校長が体育館の壇上で、実に有難い講釈を垂れている。   不毛だと思う。   話を聞くのは高校生にもなる少女達なのだ。   「交通安全、信号はよく見て……」   なんて注意事項なんですか、校長。 今時幼稚園児でさえ重々承知しているのに。 それでも一年~三年まで、クラス毎に整列した彼女達は静かに話に聞き入るふりをしている。   私も密かに欠伸を噛み殺す。   濃紺のセーラー服。 我が校の制服は実にシンプルだ。 シンプルで、皆一緒というのは実に残酷であると思う。   この野暮ったい装いをなんとかしようと、彼女達は実に涙ぐましい努力をする。   スカートを折り曲げ、丈を2~3センチ短くしてみる。 スカーフの結びを蝶々にし、或いはネクタイ結びにし。 靴下を踝丈にし、ハイソックスにし。   しかしどんなに変化を付けようと努力したところで、制服の基本的デザインは代えられない。   故に浮き彫りになるのだ。  それを纏う人間の醜美が。   2年3組。 その列の後部に、いるべき人物の顔を見つけられず私は内心でやれやれ、とため息を吐いた。   図書委員長である蔵町 双樹(クラマチソウジュ)は本日の朝礼もボイコットらしい。 ……しまったなぁと、図書館の扉に施錠して来なかった事を思い出した。 ……きっと今頃、のうのうと貸し出しカウンターの内側に陣取り、早川ノベルスでも開いているに違いない。   彼女ならば、きっと私は50m先からでも判別出来るだろう。 この同じ服の集団の中に有っても、彼女はすこぶる目立つ。 スカーフの結び目や、スカート丈を気にせずとも……だ。   人の醜美とは残酷だ。 そして蔵町という少女はそれを全く気にしない。   例え自分がどんなに、すこぶる目立つ美少女で有っても。 蔵町の価値観は私の知り得るどの少女よりも変わっている。 そしてそれ故に、彼女は目立つのだ。 すこぶる、異質で。   気になるのはもう一人……朝礼に現れない人物である。
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