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しかし今、鬼をも泣かす恭子さん相手に劣勢の一途を辿っているこの人はなんなのだろう?
情けなく眉を垂らして『ワルい、恭子。許せ。俺にはミヤサキが必要なんだよ。』と、今まさに僕の目の前でヒヨコのような声を出している奴と同じはずが無いと確信できるくらい、試合中の函薙は格好良かったと思う。
何にしても、一番驚くべき事は、この二人が付き合っていると言う事ではないだろうか。そんな、お互いに常識からずれた二人だからこそ、驚くべき事に一年半も付き合っていられるのかなぁと、僕は不思議でならない。
いつもいつも、どうしてこんな二人が、と。
「じゃあ誓いなさい。」
ふんっと鼻から空気を吐き出す恭子さんが、汚いものでも掴んでいたかのように函薙から手を離す。
かなり一方的な押し問答が終末を迎えつつある事に気付き、僕はそろそろ帰ろうかと携帯の時刻を見ようとした。
が、そうだった。持ってくるのを忘れていたのだ。しかも昨日のメールで寝落ちしてしまったその相手は、実は恭子さんだったりする。謝らなければ帰れないな、これは。
「誰に? 何を?」
函薙は苦しそうに喉を押さえ、問う。
誓いなさい、と言うのも何かずれてると思うが、言っているのが恭子さんなので問題ない。
恭子さんはその細い腰に両手をあてた。現れた手首は、先程の無遠慮な暴力からはとても想像できないくらい華奢だ。
「勿論、恭君とあたしに誓うの。もう二度と恭君を怒らせませんと、今すぐ誓いなさい。」
「いや、それは無理だな。違うのにしてくれよ。」
そう速答する函薙が偉そうに言うものだから、恭子さんの腰の手の平はいつのまにかグーにされている。
恭子さんは冗談が通じる。相手が冗談を言っているなら冗談でしょと言う恭子さんだ。拳を構えていると言う事は如何なことか。
「大体よぉ。」
一歩二歩僕に近付き、馴々しく僕の肩に腕を回して、唇を觜のように尖らせて言う函薙。
「男同士の話し合いの女が入ってくるなって話だぜ、なぁミヤサキ?」
函薙は僕の顔を見る。僕に同意を求めているらしい。
けれど、同意はしかねる。なぜなら僕は殴られたくないから。
てゆーか顔が近いぞ。
「そうね。ええ、そうよね。」
恭子さんの腕がプルプルと震え始める。きっと、僕が居るにも関わらず男言葉を使う時がまた来たということだろう。
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