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しばらく廊下で待っていると、静かに病室のドアが開いた。
「お待たせ」
「…ああ」
見慣れているはずだったが、改めて見る涼子の顔は美しかった。
「まぁ、こんなもんでしょ。あまり化粧品持ってこなかったから」
「…うん」
「入らないの?」
「あっ!入るよ」
変な話、見とれてしまった。涼子の顔なんか、ほとんど毎日見ているのに今日は全然違う気持ちで見れた。
それから俺たちは、写真を撮りまくった。
涼子の思い出を少しでも多く残そうと、シャッターを切りまくった。一緒に並んで撮ったり、涼子一人の写真を撮ったり、楽しいだけの時間だった。
急に涼子が、真剣な表情で俺を見つめて言った。
「大ちゃん…子供作れなくてごめんね」
「…えっ?なんだよ急に」
「ずっと考えてたの。子供欲しかったなぁって」
「そうだったのか。でもそれは涼子だけのせいじゃないし、仕方がないことだよ」
「うん、ありがと。私のことは気にしなくていいから、私が死んだら再婚とかしてね」
「今は、そんなこと言わなくていいよ。そんなこと考えられないよ」
「だろうけど、今しか言えないから」
「…うん」
「絶対、幸せになってね」
「…お前がいないと幸せになんかなれないよ」
涙を浮かべながら言った。
「嬉しいけど、それじゃ駄目なの。私は、見守ることしかできないから」
「……」
「私は、大ちゃんが幸せならそれが一番だから。ずっと笑顔でいてね。約束よ」
「…うん、わかった。約束するよ」
涼子は、俺からカメラを取り上げると急にシャッターを切った。
「撮っちゃった。ヘヘ」
「…こら、消せよ」
「だめぇ。保存っと」
「ダメだって。誰にも見せられないじゃん」
「見せなきゃいいじゃん。でも、あとでこの写真見たら、約束のこと思い出してね」
「……うん」
俺は涼子の手を握り、その写真を見つめた。
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