第六章~小さき賢者の考えること~

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「埃っぽい」  通された部屋に入ったリンの第一声。  純度の低い硝子から入り込む街灯の光は歪み、遠い世界の景色のように思えてくる。  その光の帯に沿って埃が星のように輝く。  これもこれでいい気がするが、 「流石に体に悪いか」 「だね」  リンは軋む窓を最大まで開けると、聖句の腕輪を構える。  そのまま腕を振るい風を起こし、積もりに積もった埃を外に押し出した。 「掃除完了っと」 「ズボラだな」 「夜に騒ぐのも失礼でしょ」  リンはサラッと受け流すと、ようやく部屋のランプに灯りを灯した。  安い油なのか薄暗い。  シャンは背負っていた女性をベッドに下ろし、壁にもたれる。  部屋にあるのは山積みなった本ぐらいで、他には必要最低限のものしかない。 「……用もないし帰るか?」 「一応家族もいるみたいだしね」  明らかに女性の物でははない衣服を見ながら呟く。  今日は無駄足だった。  そんなことを考えながらシャンは壁から背中を離すと、扉の取っ手に手をかけた。
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