第六章~小さき賢者の考えること~

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 突如、激しく乾いた咳が部屋に響く。  その直後に聞こえた椅子の倒れる音に意識を引き戻され、シャンは二人の方を見た。  体をくの字に折って咳き込むフィアナ。 「シャン! ボーっと見てないで水!」  すぐさま立ち上がっていたリンは、倒した椅子も戻さずフィアナの背中を撫でながら厳しい口調で命令してくる。  ため息混じりに壁から背を離すと、二人に近づく。 「リン、代われ。お前は水持ってこい」 「だけど……」 「お前じゃどうにも出来ないだろ?」  一瞬ムッとした顔つきになるも、そこは冷静なのか立ち上がるとすぐに水を取りに行った。 「とりあえず落ち着け……一度不安やなんかを無視してみろ」  リンが離れたのを確認するとシャンはフィアナと目線の高さを合わせる。  咳き込む度に喉の下の辺りがへこむ。 「腹を膨らまして体全体で呼吸してみろ。ゆっくりで良いから」  シャンはその様子を見て一瞬だけ目を眇め、また背中を撫でながら声をかけ続ける。  リンが水を持って戻って来たぐらいで、フィアナの咳はようやく収まった。
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