第六章~小さき賢者の考えること~

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 水滴の浮いたグラスがサイドテーブルに置かれる。  注がれていた冷水は半分に減り、激しく波立ってもこぼれぬまま落ち着いた。 「重ね重ねありがとうございます……」 「いえ、お気になさらず」  深々と頭を下げられ、リンは少し慌てた様子で手を振りながら返事をする。  普段頭を下げられることがないためか対応が若干不恰好である。 「けど……」 「事実私は水持ってきただけですよ。礼ならシャンに」 「気にしなくてよし」  頭下げられる前に先手を打つ。  慣れていないのはシャンも同じなのだ。  フィアナは羨ましいそうに二人を見つめ、そして窓へと視線を移す。  零れる光の量は徐々に減り、夜が更けていく様を映す。 「昔はもっと元気だったんですけどね……」  ポツリと独り言のように薄く開いた口から言葉が漏れる。 「兄について森にだって行けたのに……親が亡くなって急に悪くなって、近頃は外出すらままならなくて……」  表情を曇らせながら再び俯いてしまう。 「……長々とくだらない話をしてすみません。夜も遅いですし」 「はい、そろそろ失礼させて貰います」  リンはゆっくりと立ち上がり、退室した。
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