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辺りに静寂が走った。
いかにも場違いなシュウのセリフに練習生達が困惑する。
沈黙を破ったのは昨夜の少年だった。
「僕が相手をしましょう」
指導者は相変わらず微笑み
「水野君かぁ…」
少年の名前は水野というらしい。袴姿の少年は
「先生、お許し願えますか」
少年の表情はあきらかにシュウのような人種を嫌悪する顔をしている。
先生と呼ばれた指導者は少し考え一言
「…いいでしょう」
そう言うと水野と呼ばれた少年と俺を道場の真中に対峙させた。
少年は俺と対峙すると昨夜のように右手右足を前に出し半身で構えを取った。
俺はボクサースタイルに構え、軽くフットワークを使いながら距離を縮める。
リーチの射程距離に入った瞬間、
俺は右ストレートを少年の顔を目掛け放つ。
ボッ
拳が空を切る音と袴が勢いよく動く音が交差する。
拳を放つ瞬間、少年はすでに俺の懐に入り首に手を回す。
俺は自らの勢いで体制を崩され、相手の思うままに動かされている。
道場の天井の灯が見えた…そのあと後頭部にくる強烈な衝撃。
俺はクラクラする頭を必死で目覚めさせ、また起き上がった。
何をされたのか理解できないまま、また戦闘体制に入る。相手は冷静に構えたままだ。
「何をしやがった…! パンチが駄目なら…」
俺は相手のミドルに蹴りを撃とうと右足を上げた。
瞬間、相手の掌底が俺のあごに添えられ、また天井が見えた。
今度ばかりは身体が宙に浮いたのを感じる。その後にくる衝撃は前の比ではなく、さすがの俺も気を失ってしまった…
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