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「さっきから何やってんの?」
誰にも相手にされず売れ残ったモテない蝉共が「まだまだ!チャンスは、これからだ!!」と言わんばかりに鳴き叫ぶ、残暑が厳しい初秋の頃。
この家の中では、割かし広いこのリビングで来夢がさっきから部屋の中をグルグル回っている。
額に皺を寄せて何時になく真剣な表情で走っている。
「運動会の練習なんだって。」
険しい表情の来夢とは、対照的に微笑みながら来夢を見つめる杏子さん。
不意に来夢は、ペースを落としソファーの上に倒れ込んだ。
「うぅ…き、気持ち…悪い。」
青くなった顔をお気に入りの黄色いクッションに埋めてボソリと呟く。
「当たり前だ…、頼むから吐くなよ。」
「…5………4………3……2……」
コラコラコラコラ。
何のカウントダウンだ!
「ふぅ~。」
漸く落ち着いたのか、来夢は、深い深呼吸をした。
「そんなに頑張んなくったっていいんだぞ?かけっこで一番取れなくったって来夢の得意なことで一番なればいいんだから。」
…うん。
いいこと言うなぁ。
俺。
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