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「もう手遅れだ、いくぞ!」
その月明かりに照らされた恐ろしい光景に魅入られていた俺と加藤を引き戻すように徹が怒鳴った。
だが、それでも加藤は君沢を呼びつづける。
「南!南ぃ!…いや、嫌ぁッ!
みなみぃ、みなみぃッ!」
君沢の頭上にはあの化け物。
それが目に入っていないのか、加藤はふらりと一歩足を踏み出した。
「くそっ!徹!徹!
戻れ!加藤抱えろ!」
俺は徹を呼んだ。
「了解。加藤、いくぞ!」
徹の大きな身体が加藤を抱えあげるのを見ながら、俺は注意深く化け物の動きに気を配った。
「いやぁ――ッ!みなみぃっ!」
そんな加藤の声が長く響き渡る廊下。
にやりと笑ったその化け物が追って来ないのを見て、俺は先に行った徹を追いかけるようにして逃げ出した。
角を曲がる時、ちらりと振り向く。
そこで君沢の身体は廊下にぐらりと崩れ落ちた。
『――サあ、ニゲなくちゃ…。つぎハ、だれが、シぬのかな…?』
俺たちはなぜ、暗い校舎の中をこうして逃げ回っているのか。
なにから逃げ回っているのか。
いつまで逃げ回っていればいいのか。
まったくわからないまま、夜の校舎を、ただぐるぐると逃げ回っていた。
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