街角

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澱んだ空気の中、私は立っている。 息の詰まりそうなこの場所で私は立っている。 身動き一つせずに、誰の目にも留まる事なく、ただ静かに待っている。 そう、あの人がこの道を通るのを…… 通ってくれたなら…… 私に気付いてくれたなら…… 私は生まれ変われるかもしれない…… 『無理ですよ』 ソレは突如とやって来た。 この十数年、誰の目にも留まらなかったのに…… それなのに、この男は私に気が付き、尚且つ話しかけて来た。 「アンタ…誰よ?」 男を足元から上に睨んだ。 奇抜な格好した男だった。 昔、テレビで見た珍問屋みたい。 「缶詰屋ですよ」 「おあいにく様。私は缶詰なんかいらないわよ。アッチに行って」 手で男を追い払った。 何が缶詰よ。 今の私は何も食べられないに決まってる。 「残念ですね。貴方にピッタリの缶詰があったんですが……」 腹の立つ男。 思わせ振りな事を言って私を騙そうとしてるに決まってる。 「いらないって言ってるでしょ!」 「中身は、貴方の願いだったんですが、ね……」 私の願い…… あの人…? まさか、缶詰なんかに入る訳がない。 少し心が揺らいだが、私は堅くなに男を追い払った。 男に騙されるなんてごめんだわ!
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