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見上げた列車は首都行きだった。本当にこの人は首都に行く気らしい。
この人、というのは長い金髪を一つに結わった、長身のトレンチコートの男のこと。職業は、旅。
持ち前の武器である笑顔をこちらに向ける。
「私も行くの?」
「ええ、もちろん。」
にこやかに手を差し出す。その手を普通にとって車内に飛び乗る。
中にはボックス席が半分と、通路に沿うような座席が伸びていた。人影は全く見当たらない。
長身の後を追いかける。列車はすでに動き始めていて、ぐらりぐらりと揺れている。くたびれたトレンチコートがはためく。
ふいに、旅人は立ち止まった。
「・・・?どうしたの?」
はっと私を見て、困ったように微笑んだ。
「・・・どうやら、旅には出させてもらえないみたいですね。」
「??」
私の疑問をよそに、列車が減速する。
と同時に、周囲に列車が現れた。
首都行きの列車は減速しながら、左右のレール上に停まっていた二つの車両の間を進む。
やがて、停止する。
「どう、なってるの…?」
両脇の列車は、どちらも首都行きではなかった。
それどころか、別方向だった。
「どうやら、挟まれてしまいましたね。」
困っているのに、やっぱり笑顔。
ウィン、と扉が開いたけれど、それは隣の車両としか繋がっていない。
「この列車、動かないのかな。」
素朴な疑問をぽつりと呟く。
「そうだとしたら困ります。僕は首都に行きたいのですから。」
そして、やっぱりスマイル。本当に困っていたら表情は笑顔にならない。全くもって不思議な人だ。
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