Two――

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『この列車は停止した。』 どこからか、声がした。見回しても発生源はわからない。 『左か、右かに飛び乗るしかない。』 改めて扉を見つめるけれど、どこの扉も外へは通じていない。 (他の車両だったら・・・) 調べに行こう、と旅人から離れようとしたら、 「!!?」 いきなり抱き寄せられた。 「ち、ちょっ・・・」 びっくりして顔を上げたら、唇に人差し指をあてられる。 (しっ―――) 心臓が止まりそうなのか。それとも高鳴り過ぎているのか。 何か言いたくて言えず、所在無く口があぐあぐと動く。 (周りを見てください。) (・・・?) 挙動不振に辺りを見回す。 前後の車両に、人影が映る。 おおおう、と唸り声。 次第に数が増える。 増える度に近づいてくる。 唸り声が太く深く響く。 おおお、おおおう―― (―――!!) 「・・・僕は、」 旅人は、トレンチコートを被り直した。ひらっと布が宙に舞い、私ごと旅人を包み込む。 「決められることが嫌なんです。」 何かが迫る。 「僕は、僕の思うように旅をする。」 異様な熱気。 「誰にも行き先は決められない。」 周囲が薄暗い。 「僕を捕らえることも叶わない。」 爛々と光る瞳たち。 「何故なら。」 迫る。 「それが、」 せまる。 「僕の、意志だから。」 せま、る、 きゅっ、と力がこもる。 呼応するように強く抱きしめられる。 高鳴る鼓動を無視して、 彼を見上げたら、 一瞬だけ。 彼は、真剣な顔をした。
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