Three――

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「あ、おはよう。…えへへ。」 皆が固まる。 「…どしたの?」 「いや、今日は早く起きれたから。」 隣に座る友達を尻目に、携帯をぱかっと閉じた。 「最近ずっと見てないよ~?」 「あ、寝坊。」 へへ、と困ったように笑う。 「単位大丈夫なの?」 「…聞きたくない…」 「もー、ちゃんと毎日起きて来てよ!」 あはは、と笑いながらルーズリーフを取り出した。 「ノート見せて下さい。」 「嫌だ。」 「えぇっ…」 「もう、次からはちゃんと来いよ。」 そう言いながらノートを貸してくれる友達に感謝。 授業が始まるまでに写せるだけ写そうとペンを走らせる。 すぐに頭はノートに並べられた用語を吸収したり、意味を理解しようと躍起になったりしている。 友達が近況を語り合っているのを聞き流していたら、先生がやって来た。 しぶしぶ写していたノートを閉じ、ルーズリーフを一枚。 程なくして、催眠効果のある声が続く。 ペンを、くるっとひと回し。 カリカリとあの瞳を描いてみる。 実際は茶色なんだけど、今は鉛筆色。 右目だけじゃ足りなくて、左目も。 整った鼻筋を描いたら輪郭が欲しくなる。 綺麗な金髪をイメージして、薄い鉛筆色。 華奢だけどしっかりした肩に掛かる長髪。 いつもの表情を表す、上向きの口角。 『――さん。』 愕然としてペンを落とした。 慌てて消しゴムで落書きを消す。 黒板の文字を追いかけて、追いついて、 もう一度、愕然とする。 …名前、知らない。 私の中で、彼はあくまでも旅人だった。 私の中の彼は、私を『貴女』と呼ぶ。 旅人と『貴女』の関係でしかなかった。 …訳のわからない哀しさ。 『今日は何で早く起きれたの?』 友達がルーズリーフに一言。 私は呆然としたままだったけれど。 ペンを取り直して。 『彼がいなかったから。』 と書いた。
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