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帰りがけ。
夕日が高層マンション達を照らす。長い長い影がそう簡単に周囲を朱く染めようとはしない。密集した住宅街をとぼとぼと歩いて、ある一角のマンションに入る。
別段セキュリティとかしっかりしてない。普通に入って郵便受けを素通りし、エレベーターのボタンを押す。
ウィン、と扉が開く。三歩進んで振り返れば、扉は閉まって上へと動く。
「・・・!?」
そのまま、上へ上へ。
よく見たら押しボタンに一つもランプが付いていない。
向かう先を設定されていないのに。エレベーターは上へ上へ。
速度が上がる。
窓から景色が映る。
遠く遠く山の頂まで。
チン、と小気味良い音にいきなり扉が開く。
「・・・!」
雄大な自然が辺り一帯に広がっている。
下を見下ろすと、筒のようなエレベーターのタワーが伸びている。
ひゅうう、と風が吹きつける。
…このまま、ここにいちゃいけない。
デタラメにボタンを押し、閉ボタンを連打する。
扉はゆっくり閉まって、
「ひっ!!」
エレベーターは急降下。
下から上へ景色が流れる。
山の頂きから峰へ。
峰から麓へ。
次第にマンションの屋上が見える。
がこんっ!!
「!!」
急、停止。
上部を見ると、5の位置でランプが光る。
チン、と小気味良い音にゆっくり扉が開く。
そこは、マンションの5階だった。
「・・・?」
特に変わった所は無い。エレベーターに乗るのが怖いので、通路奥の階段を目指す。
1号室、2号室…
隣にはいつも見慣れているはずのマンションがあったけれど、
3号室、4号室…
何故か跡形もなくて、そのかわり秋づいた山々が視界を連ねる。
5号室、6号室…
自分の家は10階。まだ上に上らなくてはならない。
7号室、8号
「!!」
8号室の先は階段ではなかった。
代わりに、大きな吹き抜けのように壁が開いていた。
近くに5階建てのマンションがあって、屋上がここから丸見えになっている。
(飛ぶ、の…?)
気付いたら辺りは四角い空間で、脱出するにはそこから飛んで隣の屋上に移るしかない。
(えっ――)
時間が無い。
早く飛ばなくちゃ。
じゃないと、
私は、
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