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寒さを遮るショールの裾を首元で握る。
鋭く空を睨む。
風を止めるのは難しい。
だけど抑えることならできる。
眼光が鋭く空を捉える。
その時、空は彼女に反旗を翻した。
一陣の風が強く吹き抜ける。
軽い竜巻をつくりながらビルに突進する。
集団に襲い掛かれば全員さらわれる。
そうなれば遥か下の大地に叩き付けられる。
「危ない!!」
私が叫んだから、集団は身を引いて固まった。
私は叫んだから、ビルの屋上に一人孤立して立っていた。
的確に、風は私を直撃した。
(――!!)
わかっていた。
全てわかっていた。
吹きつける風が強い理由。
鉛の空が荒れ狂う理由。
ビルの屋上で孤立した理由。
全て、私が原因だから。
体が屋上の床を離れる。
上も下も鉛色した、奇妙な空間。
――瞬間、ふわりと、浮いて、
びゅううぅ、と風が切る音を奏でる。
落ち逝く私の耳に入っては消える。
髪が悪戯に辺りに靡く。
頭から落ちているせいで地面が見えない。
いつまでも落ち続ける感覚。
それが恐怖心を煽る。
地に大輪のグロテスクな花を咲かせる。
それが、痛いわけない。
――痛いのは、怖い。
怖い。
こわ、い、
知らず知らず、
悲鳴が、
空を裂いて、
『本当に、仕方の無い人ですね。』
声が心に届く。
目を開けたら、相手の目が映った。
澄んだエメラルドグリーン。
流れる金髪が太陽の光を浴びる。
周囲に銀色の風がせわしなく舞う。
「助けて欲しいならそう言えばいいのに。」
苦笑混じりに、いつもの笑顔。
尋常じゃない離れ業。
自分たちは彼の力で宙を自在に舞っている。
どうして?なぜ?
そんな思いは彼に対する想いで掻き消える。
「―――!!」
感無量で、旅人の首に手を回した。
しっかりとその腕に包まれて、嵐のような空を駆け抜けた――
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