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「あンら、戻ってきたの?」
くすくす笑う姉さん達が、のれんのすぐ後ろで隠れていた。
「せっかく面白かったのにぃ。」
「もういっちょ行ってこいや!桜姉さん困らしたり!」
「え、ちょっ、と、」
あれよあれよと押し出される。
「どうせいつも殴られてンでしょ?もういっぺん、殴られてきぃ!」
どんっ。
「う、わわわっ」
足元がおぼつかず、三歩けんけんしてぶざまにこけた。
べしっ、と小気味よい音が店内に響く。
「!!大丈夫ですか?」
旅人が桜さんの話を中断して、軽やかに駆け寄ってきた。
…一大事だ。
「気にしないで下さい。」
旅人の手もとらず、さっさと着物を叩いて玄関へ走った。後ろに旅人の目線を感じる。
「―――!!」
首根っこを掴まれた。
それは、拷問へのカウントダウン。
「旅人さぁン?もうそろそろ夕暮れですけど?宿は決まってはんのン?」
桜さんは私を捕まえたまま、隣に促した。
「いえ。まだ町を廻っただけですから。」
「じゃあ、是非ここに泊まってきんしゃい!なんなりとサービスするよォ?」
「…では、そうさせてもらいます。案内して頂けますか?」
「もっちろんですゥ!普通に泊まってもらってもエエんやけど…」
「・・・?」
後ろのくすくす笑いが始まる。
それが合図のように、桜さんはパン、と手を叩いた。
『お呼びですかぁ~?』
一斉に、姉さん達が出てくる。庵屋の部屋数に合わせた七人の美女が桜さんを右にして整列する。
「うちの芸者や。」
姉さん達がお辞儀をする。
「この中から好きなん一人選びぃ。」
「・・・というと?」
「みなまで言わす気かい?旅人さんもいけずやなぁ!」
あははっ、と笑う女達。
「旅人さんの世話を何から何までさせたる人や。好きなん選び。」
大体の察しはつくだろう。桜さん含め八人が旅人に色目を使う。
「・・・それでは。」
旅人さんはにこやかに微笑んで、
「菊さんにお願いします。」
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