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「…何だか懐かしいな。かおる、綺麗になったな」
そんな言葉を言われれば嫌でも意識してしまう。
「そんな事ないよ。
聖こそ…看護士、なれたんだね。おめでとう」
白衣の彼は郁をドキドキさせた。
「…ありがと」
聖も嬉しそうに笑う。
最初こそ、どのように接していいか解らなかったものの、時間がたつにつれ昔を思い出した。
昔どの様に自分が聖との距離を置いていたか、その感覚が徐々に戻ってくる。
お互いに話したい事は尽きる事なく次から次へと口をついて話される。
しかし時間はあっと言う間に訪れる。
聖の昼休みも終わり、戻らなくてはならない。
名残惜しいと感じてしまう。
駄目な自分。
すると聖は郁に言った。
「次、お見舞い来たら、また会える?」
「…たぶん」
いけないとは思っている。
だけど、それとは別にどこかで自分を甘やかしている。
…このくらいなら…大丈夫だよね…?
すると聖は嬉しそうに笑った。
別れ際、聖は郁に意味深な事を言い残した。
「俺、まだ引っ越してないからさ」
そしてひらひらと手を振ってそこから居なくなった。
…引っ越し?
そう言えば…前にそんな話しもしたっけ…。
それからは慎悟のお見舞いに行く事が楽しみになった。
…聖に会える。
しかし郁はその気持ちには鍵をかけた。
絶対に開けるまい、そう決めて。
萌はフリーターを卒業し、普通の会社員になった。
帰りの時間すら様々だったが、休日はしっかりと決められており、安定した仕事。
子供の様な彼に普通の仕事が務まるか、最初は物凄く心配したが、きっと郁が感じているよりも随分大人なのだ。
順調に仕事もこなしている様だった。
萌とは既に婚約している。
式の予定などはまだ何も決めてはいないが、親も公認でもう決まった様なものだった。
やはり仕事の都合もある。
昔の様に毎日会う事もなくなったが、郁は出来る限り休日を合わせる様に努めた。
萌は郁を信用しきっていて、郁の話しを全く疑わない。
しかし郁は違う。
親友である睦が、萌の元カノだと知らされたあの時から、萌に対しては常に疑問を持つ癖がついていた。
それは未だに変わらない。
たぶん私たちは結婚に踏み切るきっかけを探している。
それが見つかるまではこの状態が維持されるだろう。
おそらくは…後押ししてくれる何かを待っているのだ。
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