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病院での生活もこう長く続くと退屈でしかない。
家族以外の訪問者は特にない。
ここの所郁が来てくれるのだけが楽しみだ。
食事にもそろそろ飽きてしまった。
それでも食べない訳にはいかない。
運ばれてきた昼食を綺麗にたいらげると慎悟は何気なく窓の外を見た。
すると病院の中庭が見える。
大きな木の下にベンチが一つ置かれている。
ベンチには一人の看護士が座っていた。
…見たことないやつだな…。
「篠山さん、食器下げますね~」
「あっ、ごちそうさまです」
看護士に食器を下げてもらい、再び外を見下ろす。
すると木の影に隠れていたベンチの右側から人が現れた。
…………あれ?
慎悟が目にしたその人は紛れもなく郁の姿だった。
何やら親しそうにその看護士に手を振り、病院の中へと戻って行った。
……友達かな?
暫くすると郁はやって来た。
そしていつも通りに慎悟の着替えを入れ替えると帰って行った。
数日後、昼時に慎悟はまた同じように外を見るとやはり看護士が一人、ベンチに座っている。
誰かと話しをしているが相手の顔は見えない。
少しして木の影から姿を現したのはやはり郁だった。
気にはなったが慎悟はその事を詮索しなかった。
そしてその週の日曜日、郁は萌と一緒にお見舞いにやって来た。
「おはよう、お兄ちゃん」
いつもは昼過ぎに来る筈がこの日は午前中に。
「おう。何だよ、萌も一緒かよ。
今日は漫画はないぞ」
萌がここに来るのは二度め。
前回は確か…慎悟の暇つぶしの為の漫画達を読み荒らして帰った。
「…何だ。つまんねえの…」
「もう!お見舞いに来てるんだからつまんないはないでしょ?」
郁は小さい子を叱る様に言うと慎悟の洋服の整理を始める。
萌はつまらなそうにベッドの横の椅子に腰かける。
郁から見ても慎悟と萌、二人は実の兄弟の様に上手くやっている。
郁が一通り作業を終えると萌は徐に椅子から立ち上がった。
「どうした?」
慎悟が声をかける。
「…ジュース買ってくる」
「…待って、あたしも行く!」
郁はそう言ってバッグから財布だけ取り出すと病室を出ようとする萌の後を追った。
扉に手をかけると慎悟に呼び止められる。
「かおる、俺コーヒー」
「…はいはい、じゃあちょっと待っててね」
そして二人は部屋を出た。
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