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第一章 星の少女
誰もが羨むような素晴らしい眺めを独り占めしている女性がいた。空が綺麗だ、今日も皆の顔は快晴だ、そんなことを独り言のようにぶつぶつと呟いている。風が吹くとその優雅な長髪がなびいて美しい。
戴冠式から二日経った。その者、アテナ・ファレンシアは晴れて女王となり、その日々を始めようとしていた。が、中々その気になれず、こうしてずっと外の景色を眺めている。アテナが人々の往来を見下ろしながら溜め息をついていると、後ろから元気な声が階段を駆け上がってきた。
「こらぁヴァイシリオン、それ私の! 返せー!」
「いやぁなの。悔しかったら追いついてみろなのー」
明朗闊達でアテナの親友であるエリンと、今ではすっかり王宮の生活に馴染んだ少女ヴァイシリオンが凄まじい鬼ごっこを繰り広げている。見るとヴァイシリオンの手にはエリンの大好物、プリンの乗った皿があった。エリンはその道の通であるというのだ。それにしても、あれだけのスピードで走っていてよくプリンが落ちないなとアテナは感心した。
「それ、最後の一個なんだぞ!」
「だってテーブルの上に置いてあったんだもん、なのー」
「食べるために置いてあったに決まってんでしょうが! ってあぁ!?」
ヴァイシリオンは一口でプリンを頬張った。エリンの顔が般若にも劣らぬ恐ろしい形相へと変貌していく。このままだとエリンが神の力を解放しかねないので、アテナは仕方なく仲裁に入った。
「喧嘩しないの。また取り寄せてあげるから」
エリンは渋々了承した。が、ヴァイシリオンがアテナの影からエリンに向かってあっかんべーをしたので、またしてもエリンはキレてヴァイシリオンを追いかけていってしまった。残されたアテナは呆れてふぅと溜め息をついたが、その顔は微笑んでいた。
その時、地面が揺れるのをアテナは感じた。地震だ。それは数秒間の後、治まった。それほど大きな地震ではなかった。
「また……。最近多いのよね、地震」
言ってアテナは再びファレンシアの人々を眺めた。この先、いつ戻ってくるかも解らぬアレンを待ちながら、女王としての多忙で退屈な日々を送らなければならないと思うと、アテナは憂鬱になるのだった。エリンとヴァイシリオンの存在が、この日常にとっての唯一の救いだった。
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