405人が本棚に入れています
本棚に追加
「陛下」
アテナを呼ぶ声がした。声だけで解る。その気魄は声を通してアテナの体を伝う。振り向けばそこには左目に大きな傷を負い、がっしりとした体躯の男、ドレッドが立っていた。
「もう、陛下なんて呼ぶのやめてよ。ラフィアちゃんはアテナって呼んでくれてるのに。今まで通り呼んでくれないと、調子狂っちゃう」
「お前がそう言うならそうしよう。アテナ、お前に手紙だ」
「えっ!?」
アテナは手紙と聞いて淡い期待を抱いたが、すぐにそれは無いと解った。アレンから手紙が来るはずは無い。僅かでも自分の居場所を知られる可能性がある行為はしないはずだ。
「レグナム帝国皇子、キルヴェール・ドレンディア・レグナムからだ」
「レグナムから?」
その時から、アテナはなぜだか嫌な予感がしていた。レグナムから手紙が来ても別段おかしい訳ではない。レグナムとは黒衆(ニグレード)を壊滅させるために一緒に戦ったからだ。しかしアテナは、なぜかその手紙の内容を読みたくは無かった。その様子を見て、ドレッドは眉をひそめた。
「……どうかしたのか?」
「い、いや、なんでもないわ。読んでみるね」
アテナが手紙を開き、内容に目を通す……。しばらく黙って読んでいたアテナ。目の動きが止まり、読み終えたとドレッドは思ったが、アテナの目はそのまま手紙に釘付けとなって動かない。
「……アテナ、どうなんだ?」
「えっ、いや……。だ、大丈夫みたい。このあいだの戴冠式のことよ。出席させてくれたお礼の手紙みたいだわ」
そう言って引きつった笑顔を見せる。明らかに内容の良い物ではないようだ。ドレッドでなくても解る嘘であったが、アテナは手紙の内容を伝えようとはせず、あくまでお礼の手紙だと言い切った。
「そうか、ならばよい。俺は戻るぞ」
「う、うん。いつでも休憩していいよ。どうせ事件なんて滅多に起きないから」
それが女王のセリフか、と憎まれ口をたたきながらドレッドは戻っていった。アテナは再び手紙を眺めた。まるで書いてある内容を読み間違えていることを願うように。しかしいくら読んでも内容が変わるはずが無かった。
「どうしよう、こんなの……」
最初のコメントを投稿しよう!