研究報告書

2/8
405人が本棚に入れています
本棚に追加
/542ページ
 問題は山のようにあった。まずは簡単に考えてみる。セルムとは即ち、この星の外である。この星が球体であるというのは、かの有名なエトワール大学院の星体学者、ルーベルト・ハイデルヘイムによって証明されている。星の外に出るということは当然ながら、この球体から飛び出るということである。  ここで問題がある。我々人間は飛べない。翼を持つ鳥ではない。  世界には鳥や昆虫のメカニズムを研究し、人類長年の願望である飛行を可能にしようと奮闘する学者が数多く存在する。しかし、その誰もが未だに十メートルの飛行すら実現できていない。私には創造の指輪があったので、飛行を可能にする物(仮に飛行機と呼ぶ)の創造を試みた。が、飛行機とはどのような形なのか、どのような仕組みで飛ぶのか、全くイメージできない。専門の学者ですら明確な形を示せないのであるから、素人の私にイメージできるはずはないのだ。そう、『想像』できない物を『創造』することはできない。  仮に飛行の問題が解決したとして、まだ大きな問題がある。セルムには、我々人間にとって欠かせない、酸素が無いということだ。我が力で酸素を創造することはできるが、セルムを進む間ずっと創造し続けるなど不可能である(人一人分の酸素を休まず連続して創造できるのは、試してみたところ、せいぜい六時間程度)。地上であらかじめ創っておくというのも考えたが、セルムを何日進むのか解らぬのでは明確な必要量も割り出せず、確実性に欠ける。途中で酸素が尽きるようなことがあれば、その時点で死は免れない。  飛行機の完成を待っていてはいつになるか解らない。酸素の問題も解決しそうにない。どうやらセルムへ行くためには、人間の範疇で考えていてはいけないようだ。やはり、神に頼るほかあるまい。
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!