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神に頼るとは言ったものの、我が指輪の神ブラフマーは最初に会って以来、一度も姿を見せない。呼びかけてみたが反応は無い。
私は一つの仮説を立てた。この世界には、私と同じように神の力を持つ人間が他にもいるのではないかと。それらの中には、先に述べた諸問題を解決できる神の力が存在するかもしれない。今一度、神について調べることにする。
世界的にも有名な図書施設をいくつも回ったが、見つかるのは伝説に踊らされて真実と全くもって異なることを書いている駄本ばかり。実際に神と対面し対話した私にとって、それらは呆れを通り越して苛立ちすら覚える内容の物であった。やはり神などという存在を人間の領域で量ることはできないのだろうか。
しかし、求める物は唐突に現れた。私が聖都マルク・エスダムに足を運んだ時のことである。古代文明の遺産であるその地で、私はある一冊の分厚い本を見つけた。
題名『エル・トルエス』、著者『レクシス・バールゼフォン』
私は著名な人物の名ならばほぼ全て知っていると自負しているが、この著者の名は聞いたことがなかった。どうせまた、多くの駄本と同じようにくだらぬ戯言が書いてあるに違いない。そう思いながら帙(ちつ)を繙(ひもと)いてみれば、何とそれにはブラフマーの語った歴史と全く同じ内容が書かれているではないか。それどころか、こちらのほうがより詳しく、より真実味を帯びている。でたらめを書いてある可能性も大いにあったが、藁にもすがる思いで私はその本を読みふけった。
そして見つけた。神に頼るという当初の目的とは違うが、まさしくセルムへの道を私は見つけたのだ。それは『寄星体(ノアズ)』。この星が誕生した頃に隕石の如くやってきた、言うなれば星の寄生虫である。ノアズは強い星命力に惹かれてセルムの中を飛び回り、その星命力の発生源である星に衝突して星の中心部まで潜り込むという。衝突された場所には巨大な穴が出来上がってしまうが、そこへ流れ込むものをノアズが凄まじい力で上昇させて穴を隠している(つもりらしい。我々人間から見れば奇怪の極みであるが、その辺りはやはり、知能の無い下等生物と言える)。その上昇流は、多くの学者に長年研究されてきたヴァレリア円形大瀑布の謎を一瞬で説明してしまう。瀑布の中心から噴き上がる水流は、まさしくノアズの力なのだ。そしてそれは、その下にノアズが存在することの証明だ。
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