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なぜ私だけが生き残ったのか。人も、町も、全てが跡形も無く消し飛んだのに、私だけが、生きている状態だった。周りにうごめく不気味な黒い物体。いや、物体とも言えないかもしれない。それは生きているのか死んでいるのか、そもそも生命体なのか、何も解らない。ただ、私は恐れた。何も感じ取れないそれを見ていると、底知れぬ恐怖を覚えたのだ。
どういうことか、それは私の言うことを聞くようだ。『それ』と呼ぶのはどうにも解りにくい。しかし、生命体かどうかも解らない『それ』に名を付けるのもどうかと思えた。だから私は『それ』を、そこに存在するだけの黒、『黒き存在』と呼ぶことにした。
黒き存在には新たな可能性を見出せた。黒き存在は生命体を襲い、それによって命を落とした生命体はその心を黒き存在に吸収される。『心』などという抽象的なものが、まさか目に見えるとは思いもしなかった。ただ、神が存在するのだから心もまた存在し、見ることができる、そう思っておくことにする。私にそれを考える必要は無い。重要なのは、心と黒き存在が利用できるということだ。生命体を創造することはできない。しかし、この二つを利用すれば、それに類するものを創り出せるに違いない。
黒き存在にも個体差というものがあるらしく、私はその中でも殺人能力に長けた一体を選び、それが集めた心を摘出する実験を試みた。と言っても、数え切れぬほどの失敗を繰り返した。唯一成功したのが、神の力を我が手に纏わせ(これもかなりの訓練が必要だったが)、黒き存在の中から直接手掴みで摘出するという、何とも強引な方法だった。正直なところ、様々に考えていた実験の合間に、遊び半分でやってみようと思った実験だったのだが。
ともあれ心の摘出は成功した。続いて私は、大量の黒き存在から心を集め、それを一つに固めた。そしてそれを、能力の高い黒き存在に再び取り込ませてみた(この頃、驚いたことに黒き存在は進化し、なぜか炎を出したり、飛んだり、様々なタイプが生まれていた)。黒き存在はもともと生命体であるのだから、消し飛んだ心をさらに大きくしたものを取り込ませれば、強大な力を持った生命体が生まれるのではないかと密かな期待を抱いた。
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