研究報告書

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 この時ばかりは、自分は天才かと思った。本当に黒き存在は変異し始め、終には人間の形を成したのだ。それはきょろきょろと辺りを見渡した後、私に気付いて跪(ひざまず)いた。黒き存在と同じく、それも私に従った。普通に見るだけでは、それがまさか黒き存在から変異したものとは思えない。黒き存在とは違い、そこに存在するだけではなく、喋り、表情を創り、喜怒哀楽を持つ。心のおかげか。  だが、それはどう転んでも、もはや人間ではない。一度心を失い、私が心を寄せ集めて創った偽りの心を埋め込まれた、偽りの存在なのだ。言い換えるなら、集められた心が『偽りの主を持った存在』、『真の主を失った存在』……、Less Main(レスメイン)。  レスメインの力は強大だった。固めた心の中で最も強い心を持っていた人物の姿に変異し、その能力には変異する前に黒き存在が持っていた力がそのまま受け継がれる。性格というのも心に影響され、様々に分かれた(殺人を拒否するタイプは破棄した)。その能力は、炎・水・雷・地・風・空の六大自然属性や、光・闇・無の三大非自然属性を操るものが大半だった。結局、最も能力の高かった五体を我が最強の駒とした。  ただ、まだもう一つやってみたい実験があった。黒き存在に心を埋め込むのではなく、強い心を持った人間に黒き存在を丸ごと融合させたらどうなるか。運が良ければ、さらに強いレスメインを生み出せる。いや、レスメインではない。人間と黒き存在の融合体、半黒(デミレス)というのが正しいだろう。  この実験に賛同し、最初の被験者として申し出たのが、我が息子ヴァンゼクトであった。若かりし頃に出会って私の思想に共感し、今は妻である女性との間に、ヴァンゼクトは生まれた。私は既に三十二歳だが、ヴァンゼクトはまだ十歳であった。そんな幼い体で実験などできるはずも無い。だが、ヴァンゼクトは譲らなかった。幼くして天才と呼ばれ、大人びており、本当の大人でさえ頭を下げたくなるほどであった。私のことを心から慕い、他の実験でも私の手助けとなってくれた。だからこそ、ヴァンゼクトは私の思想を理解し、この実験に申し出たのだろう。  決心した。ヴァンゼクトを最初の被験者とすることを。妻もまた、それを許してくれた。
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