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実験は成功した。ヴァンゼクトは何と、十歳とは思えないほどの強靭な肉体を手に入れ、しかも能力は、今までに無かった『時を操る力』を身につけていた。これは予想以上の成果である。
と思えば、やはり無理のある実験であることを痛感した。その次に申し出た妻が、死んでしまったのである。私もヴァンゼクトも悲しみに沈んだが、妻の犠牲を無駄にする訳にはいかないのだ。私はその後、レスメインの捕えた多くの人間に同様の実験を試みたが、どれも成功せず、全ての人間は絶命した。ヴァンゼクトと何が違うのか。恐らく、心の強さだろう。ヴァンゼクトは稀に見る精神の持ち主であると、親である私ならば解る。そう、稀に見るのだからこの実験はほとんど成功しない。諦める他無かった。
だが、戦力はもはや十分であると判断した。私自身も、ヴァンゼクトと同じく黒き存在を体内に宿すことにした。私もまた見事に成功し、不老の身を手に入れた。後は、生命を滅ぼすのみである。
ここまで来て、新たな問題が生じた。前述した、私以外の神の力を持つ人間である。やはり存在したのだ。しかし、それは私の障害となるようだった。どうにも、神から私を倒すように言われたらしい。なるほど、神にも見放されたか。だが、私は諦めぬ。たとえ神の力を持つ者が立ち塞がろうと、私にも神の力はあり、レスメインとヴァンゼクトがいる。
レスメインに敵である人物を調査させたところ、興味深いことが解った。神の力を持った者は四人いるらしいが、その中のハイデルヘイム夫妻(まさかルーベルト氏の妻が神の力を持つとは思わなかった)には、ヴァースとローザという二人の娘がいるらしい。他の三夫妻にも子はいるが、レイヴェルク、アテナ、クロノス、ヴァースの四人はなぜか厳重に護られていて、近づくことすらできないほどだった。だた、ローザだけは監視が甘く、レスメインの一人ファズアードに誘拐させた。
私はこう考えたのだ。神の力を持つ者の子供ならば、ヴァンゼクトと同じく黒き存在の融合に耐えられるのではないかと。予想は的中し、見事ローザの身体は黒き存在を受け入れ、これまた高い能力『空間を操る力』を得た。ヴァンゼクトよりもさらに幼かったローザは、ショックで記憶を失った。私はせめてもの情けとして、誘拐した時に絶えず叫んでいた『アス姉』という言葉から、その名を‘アス’タロッサとした。
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