第壱章†介入者†

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. . . 「ん……ああ、夢か……」 かたかたと静かに揺れる幌馬車の中、帽子を深く被った青年は目を覚ました 「昔の夢を見るなんてな……老人みたいだ」 「起きたようだね、ジョエル」 手綱を引いていた青年が幌の中を覗き込みながら問い掛ける 「ああ……。 今どの辺だ?レノ」 レノと呼ばれた青年は“レノ・ブラン”と言う、色素の薄い茶髪とブラウンの瞳、温和そうな顔つきをしていた 「そうだな、次の町まであと5時間って所かな」 レノは顎に手を当て考えながら答えた 「そうか、日が落ちる前には町に着けそうだな」 ――俺の名はジョエル、ジョエル・シルヴァーグ。 俺は今、とある旅一座の軽業師として働いている 「さて、後はどうやって暇を潰すかな」 背伸びをしながらジョエルは呟く。 じゃあ僕と代わってよ、という言葉は聞こえなかったことにする 「もう、自分勝手だな」 レノは溜め息混じりに呟くと前を向いて手綱を握りなおす 「ん?旅人かな今時一人なんて珍しい」 レノたちの一座の馬車団の先に旅人らしき人影が見え始めた 「なんだ?えらく変わった格好の旅人だな」 ジョエルが幌から顔を出して前方を見る。 いつのまにか帽子を目元まで被り直して 「よく見えるね……この距離で」 レノの言うとおり人影は何となく見える程度の距離で格好など見える距離ではない 「俺の特技だ、軽業以外のな」 ジョエルはそう言うとにやりと笑った
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