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 晴海の言うとおり、このストーリーは私だって、おかしいと思う。私もこの東京で十何年生きていても、ホストにナンパされた女の子なんて聞いたこともないし。普通のナンパとかはまぁまぁ聞くけど。それでも、 「私たちは都会にいるけど、地方に住んでる子とかなら、これが『リアル』って思っちゃうんだって。それに、こういうことに憧れる子だっているだろうし、みーんなが疑うってことはありえないって。それに私は実体験ですって言い張るし」  普通に考えて、最初のころから実体験じゃないでしょ? っていう風に疑う人とかいないだろうし、いたとしても無視すればいいと思う。 「じゃあ、最後の交通事故はどうするの? 実体験なら死んだら駄目でしょ? 流石に死んだら小説の続きも書けないし、『私は交通事故で死んだ』とかありえないでしょ。どんなに鈍くても嘘だって分かるわ」 「そこはまだ悩んでるんだよね。交通事故か、自殺かどっちにしようか迷ってる感じ? どっちにしろ、嘘で私は死ぬことになるけどっ。  ははっ! 実はね、もう決めたんだけど最後は私が書いたことじゃないってすることにしたわけ。体験した本人は死んでいて、その『私』の相談を受けていた友達が最後の部分を書くっ てことにするんだって、そうすれば私が死んでも小説が完結できるでしょ? 私、これ思いついたときヤバイって思った。完璧じゃん!」  ケータイ小説を書いていることも、ケータイ小説内の『恋愛』をしていることも話していた唯一の親友、という設定にしておけば、大丈夫でしょ。  『私』が死んでしまったので、代わりに私が最後を書きます……とかあとがきっぽく書けばいいかな? これで、ムジュンする部分ナシ! 「はぁ……悪知恵が働くもんだね。美奈、そんな嘘ベタベタの小説なんかで本当にいいの?  いろいろと問題じゃない?  私からはあんまりお勧めできない、というかそこまでして……」 「いいんだって! 小説がどうこうとか、内容がどうこうとか、周りに何言われようと関係ないんだって、最後に書籍化が決定して、賞金さえ貰えばいいんだから。私はそのために書くんだし、ほかの事なんて知らないし!」  晴海は不同意の姿勢を崩さないけど、ここまできたらもうやるしかない。やめる気なんてない。せっかくここまで考えたわけだし、全力でやっていきたい。
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