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んー、と両腕を空に向かって伸ばして、眠気を完全に抜いた後、私は弱く照りつける太陽の下、通学路を進み始める。今日も何かいいことがありますように、と心の中で呟く。
とりあえず、今の私にとって『いいこと』は書いている『ひとつのシンジツの愛』が人気ランキング一位になることかな。
っそう、思った。一位になって。一ヶ月それが続いて、書籍化して、賞金ゲット! そうなれば幸せじゃんって考えていた。
そのときは。
更新は二日に一回が基本。私はこういうコツコツしたことが嫌い、でも目的達成のことを考えると、面倒という気持ちが出てくることはなかった。それに、少しずつでも読んでくれる人が増えていく事実が、私のテンションを上げていった。
そんな毎日が続いたある日の朝、晴海の表情がいつもより輝いていた。
「晴海、幸せそうじゃん? どうしたの? 例の彼氏のことは知っているけど」
晴海とは席が隣だから、ちょっとした変化でもすぐに分かってしまう。それに、晴海とは高校からの付き合いだけど、かなりの時間一緒に過ごした。だから、お互いのことはけっこう分かったりする。
例えば、晴海はずっと一人の男の子に片思いしていた。中学校入ってから、最近まで、ずーっと。晴海は勉強も出来て、落ち着いていて、クールっぽい感じがするけど、その片思いの男の子の前だと、ただの女の子になっちゃう。筋金入りの、照れ屋サン。
でも、その片思いの男の子と最近付き合いだしたらしい。ぶっちゃけ、晴海は告白できないだろうと思っていたし、例の男の子も別の女の子が好きだと思っていたけど。私の予想は外れたみたい。
「いやあ、最近嬉しいことが重なって、嬉しい気分でいっぱいだ。本当にすごいよ、こんなことが実際にあるんだって驚いているところよ」
「そうなんだ」
私はへぇー、と何度か頷いた。授業中、憂鬱そうに窓を眺めて、溜息が似合っていた晴海――その私の中のイメージと異なる晴海の現在の姿に、私はちょっと驚いた。
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