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「もっとないの?」
「一応あるけど」
「見せろ」
「その前に、髪の毛乾かそうよ」
いっこうに髪を乾かそうとせず、水滴を部屋中にばら撒きならが少女は男の描いた絵本を色々なところから引っ張り出した。
仕方なく、絵本を読むのに夢中になっている少女の髪を男は乾かしてやる。
どうして見ず知らずの機械人形に風呂を貸してやり絵本を笑われ髪を乾かしてやる破目になっているのか。
男にはさっぱり分からなかったが、まぁ、良いかと彼は溜息をつき深くは考えないようにした。
「クダラナイ」
「はぁ」
「これは売れないの」
「ですよね」
バシリと思った事を呟く彼女の髪を乾かし終わる頃には、少女は全ての絵本を読み終わっていた。
しかし、まだ読みたいとばかりに男の方をキラキラとした期待するような瞳で見ている。
勘弁してくれ、彼は頭を抱えた。
「もう絵本はないよ」
「もっと読みたいの。もっと、もっと」
「求めるだけ求めるなよ。ものにはいつだって終わりがきます」
「もっともっと」
「限度を知ってください」
駄々っ子のように、手足をばたばたと動かす相手をあやしながら、男は再度溜息をつく。
自分が数年間かけて描きためてきた絵本を、全て「くだらない」という一言で返されてしまっては溜息もついつい口からこぼれてしまうというものだ。
それでも少女は暴れるのをやめない。
男には、彼女がある種の悪魔のようにも思えた。
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