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「I love youというものなの。
異国のお言葉なの。ここの国のお言葉に変換すると…変換すると何になるのかな?
分からないけど、きっと素敵なお言葉なの。
温かいお言葉なの。
だって、アナタの傍にいると心臓部が温かいの。
幸せなの、シアワセなの。
I love youなの」
ニコニコと微笑みながら先程から何かを長々と語っていた少女が、彼の背中に抱きついてくる。
ビシャア、と嫌な音がして彼の傍らにあった水の入ったバケツが重力に引き寄せられた。
彼の机は、たちまち水浸しになった。「わーお、まるで台風でもきたみたいね!」原稿を全てびしょぬれにされた男は、少し違う世界の扉を開きそうになる。
開きかけた扉を慌てて閉めながら、男は振り返った。
ニコニコと彼女は微笑んでいる。
怒る気にもなれない。
「アイラブユーは、愛してるって意味だよ」
とりあえず、彼女が求めているであろう答えを男は口にしてやった。
彼は極度のお人好しだった。
学生時代も「良い人」だと好評だった。
だが、それゆえに「良い人」止まりで終わってしまうため彼はモテなかった。
彼は、いつだってヘラヘラとした笑顔を浮かべていて、いつだって他人の言う事にペコペコと頭を下げていたから、最初は良い人だと言っていた人達も離れていった。
とても人間っぽくないと、色々な人に言われた。
だから、今、彼は笑わなくなった。
「アイシテル?」
「そう、愛してる。世界で一番好きな人にあげるべき言葉なんだ」
「じゃあ、私はあなたをアイシテルの」
随分と安いアイシテルだ、と男は思って彼女に何も返そうとしなかった。
会って、まだ二日しかたっていない相手に、そう簡単にそれは言える言葉ではないと思ったからだ。
やっぱり、彼女には感情も何も存在しないのだと思った。
「アイシテルの。だから早くコワシテね」
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