くどいようだが男は売れない絵本作家だった。

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話をしてみて、男は気づいた この少年も機械人形なのだ、と。 その事を聞けば、少年は少しだけ驚きながらも 「よく分かりましたね」 と笑った。 最新作の機械人形は、人間とどこも変わらないように見える。 人形だと気づかれない方が多いのだと、少年は呟いた。 機械人形に刻まれる事が義務付けられている商品番号も、今ではすっかり目立たないところに付けられてしまっている。 自分達は、人間らしく生きていく事が義務つけられているのだ。 何があろうと、人間のように喋り人間のように行動し、人間として生きなければいけない。 いつか自分達は、自分が人形であるという事実すら忘れてしまうだろう。 人間は、果たして人間に似ている人形を作ろうとしているのか、それとも都合の良い人間を作ろうとしているのか。 自分にはよく分からない、と少年はもう一度笑った。 少しだけ悲しそうに下げられた眉は、人間のそれとどこも違わなく見える。 人形は日々進化しているのだ。 人間と並ぶその日を勝手に夢見せられて。 ただただ、人間になるように努めて。 それが正しいのか正しくないのか。 幸せなのか不幸なのかは、男にはさっぱり分からなかったし、理解する気もなかった。
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