くどいようだが男は売れない絵本作家だった。

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「人形にも、絵本を気に入るとかそういった感情があるんだね」 ただ、そこだけは気になって口に出さずにはいられなかった。 正直彼は失望していた。 一番最初に自分のファンだと良い、自分のサインを求めてくれた相手が、人間ではなく人形だった事が悔しくて仕方がなかった。 心など存在しない彼らに、気に入ってもらったところで何がどうなるというのだろうか。 しかし、この人間にそっくりな人形と話している間に、彼の悔しさもだんだんと薄れていった。 こんなにも、人間に近い存在なのだ。 もしかしたら、彼らにも彼らなりの感情というものが芽生えてきているのかもしれないと思ったからだ。 「え、ないですけど」 だから、少年のその言葉には、肩を落とさずにはいられなかった。 「………ないの?」 「あ、すみません。失礼な話かもしれないですが、ないです。カケラもないです」 「あ、そう。いや、まぁ、そんな事だろうと思ったからね。普通の人が俺の絵本気にいるわけないもんね」 男は強がってみせた。 でも、心は涙の大洪水だった。 「じゃあ、ファンとかそういうのは全部嘘なのか」 「いえいえ、嘘ってわけじゃあないです」 男には少年の言っている言葉の意味が理解出来なかった。 絵本を好む感情を持っていないという事なら、男の絵本を気に入ってもいないわけであるから、ファンになるなんて事は出来ないはずである。 なのに、ファンというのが嘘ではないとはいったいどういった事だろう。 彼は少年の方を見やった。 服に付着したトマトジュースが乾くのはまだ当分先のようだ。
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