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どんよりとした鉛色の雲が低くたちこめる、憂鬱な午後だった。
その日の講義に出席し終えた私は、何となく真っ直ぐ帰る気がせず、食堂で珈琲を飲みながら読書をする事にした。
本当はいつものように静かな図書館が理想なのだが、もうひとつの外せない要素である珈琲のために涙をのんだのだ。
午後の講義が始まる時間のせいか、食堂は束の間の静けさに包まれていた。これはツイてる…私は心の中でそう呟きながら紙カップの自販機でブラック珈琲を買い、売店でクッキーと、一冊だけ売れ残っていた写真週刊誌を見出しに魅かれて購入して、隅のテーブルに陣取った。
鞄から本を取り出し、少しだけ優雅な気分で珈琲を口に含む。
しかし、至福の時間になる筈だった私の午後のひとときは、読みかけだった小説を数ページ読んだか…というくらい、あっと言う間に終わりを迎えたのだ。
「失礼…ちょっといいですかな?」
細やかな楽しみを無粋な訪問者に邪魔された私は、少し苛つきながら声の主の方を振り返った。
そこには突き出た腹を、おそらくオーダーメイドであろうきっちりと仕立てられたスーツで抑え込んだ少し怪しい風貌の男が、その異常に鋭い目線と反してにこやかに立っていた。
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