第二章

8/8
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 しばしの沈黙が訪れた。部屋に入った当初は気にならなかった古めかしい振り子時計の機械音が、やけに耳にはいりこんでくる。   「しかし…困りました。」    沈黙を切り裂いたのは宇野だった。   「聞けば聞くほど、考えれば考えるほど方法が解らない…。如何なる方法を用いてもターゲットを的確に殺すのは不可能です!!」   「……………………。」   「殺意が芽生える関係で唯一、手の込んだ仕込みが出来るのは家政婦です。しかし、彼女のチャンスは運ばれてから飲み物を交換したという事実で完全に失われました。」   「先生はお手伝いさんは完全にシロだと?」   「その通りです。彼女にチャンスはありません。仮にマネージャーが毒に倒れていれば話は別ですが…沢渡を殺す事は彼女には出来ません。」    宇野は立ち上がり部屋をうろうろと歩き回りながら、話しを続けた。口調は明らかに推理に行き詰まり苛立っている。   「もう一人、手の込んだ仕込みが出来るのは家主である秋村氏です。しかし動機がない…。」   「秋村さんは、この日訪れた沢渡さんを見て感動していたと聞きます。自身の思い描く主人公に適役だ…と上機嫌だったと…。」   「はい。私も出国前にその報道は見ています。彼に関しては今後も動機に繋がるような事実は出てこないでしょう。何故なら…」    一呼吸おいて宇野は私の方に向き直り話を続けた。   「秋村氏は沢渡を知らなかったのですから。」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!