第三章 彩りを添え

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   茜 色  ━━━━ 『葉笛の記憶』  夕暮れの  秘密基地から帰る土手  幼なじみの君と並ぶ  あの頃繋いだ手には  躊躇が無かった  彼女は葉っぱをちぎり  口にあてて  ブーブーやってる  「この葉っぱじゃないのかなぁ」  いつも音は出なかった  ランドセルとリコーダー  セーラー服と英単語  季節は変わり  葉っぱも変わり  それでも音は出なかった  「あきらめたくないなぁ」  折々の風が時を刻む ◆  十数年経っても  ここの景色は変わらない  「推薦決まったって?」  「ん、東京のS大」  「流石ね」  彼女はゆっくり空を仰ぐ  「春から私、一人でここを歩くのね」  黄金色のススキが揺れる  「四年は長いかな」  「長いわね」  そういえばと  彼女は近くの草を抜いた  「口の形が問題だったわ」  「へえ?」  草からピゥと澄んだ音が響いた  「そういう音なんだ」  「綺麗でしょ」  「長い道のりだったな      ……おめでとう」  「まだ音階もあるのよ」  「へえ」  僕は少し考えて  そしてすごく久しぶりに  彼女の手を取った  彼女の瞳が驚いた  「先は長いかな」  「そうね」  握った先の  指の緊張が解かれてゆく  「あきらめないけどね」  下を向いて  はにかむ彼女に夕陽があたる   .image=102713876.jpg
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